新しい何かを始めようとするとき、決まって心の奥から聞こえてくる声がある。
「お前に特別な才能なんてない」
「どうせまた、三日坊主で終わるのがオチだ」
そんな内なる声に、何度、挑戦する前から心を折られてきただろうか。もし、あなたも過去の僕と同じように、自分には何もないと感じ、一歩を踏み出すことを躊躇しているのなら。
少しだけ、僕の話に付き合ってほしい。 これは、特別な才能なんて持ち合わせていなかった、むしろ、絶望的に不器用だった僕が、あるシンプルな真実に気づき、人生の景色が少しだけ変わった物語だ。
言い訳ばかりだった、不器用な僕の現実
大学時代、僕はクラシックギターのサークルに所属していた。 きっかけは、新入生歓迎会で聴いた先輩の演奏。たった6本の弦が紡ぎ出す、繊細で、時に情熱的な音色に、一瞬で心を奪われた。
「僕も、あんな風に人の心を動かす演奏がしたい」
希望に胸を膨らませて入部したものの、現実はあまりにも厳しかった。 まず、自分の指が、自分の思った通りにまったく動かないのだ。楽譜に書かれた「C」のコードを押さえる。ただそれだけのことに、数分かかる。
隣では、同期の仲間がいとも簡単に音を鳴らし、楽しそうに次のステップへと進んでいく。その笑い声が、やけに遠くに聞こえた。
焦れば焦るほど、指はこわばり、弦は鈍い音を立てるだけ。悔しくて、情けなくて、指先がじんじんと痛むのと同じくらい、胸の奥もきりりと痛んだ。
いつしか僕の口癖は、「僕は不器用ですから」になっていた。 「なんでそんな簡単なフレーズが弾けないんだ？」と先輩に呆れられれば、「すいません、不器用で」。 同期との差が日に日に開いていくのを感じれば、「あいつはセンスがあるから。僕は不器用だから仕方ない」。
「不器用」という言葉は、できない自分を正当化してくれる、便利な鎧だった。それを脱いで、自分の至らなさと向き合うのが、ただ怖かったのだ。
練習は、続けた。けれど、それは「やっている自分」に満足するための、どこか言い訳がましいものだったのかもしれない。
時間は無情に過ぎていく。気づけば、2年生になろうとしていた。 僕のギターの腕は、ほとんど上達しないまま。サークルの仲間たちの輪の中で、僕だけが、まるで取り残されたような深い孤独を感じていた。
転機は突然じゃなかった。それは「毎日」の中にあった
もう、やめてしまおうか。 その考えが、頭をよぎらなかったと言えば嘘になる。
それでも僕がギターを手放さなかったのは、明確な理由があったわけじゃない。ただ、ここで逃げたら、本当に「何もない自分」を認めてしまうことになる。そんなちっぽけなプライドだけが、僕を練習場へと向かわせていた。
来る日も、来る日も、メトロノームの無機質な音に合わせて、指を動かす。ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ、ド。スケール練習と呼ばれる、基礎中の基礎。面白くもなんともない、退屈な反復作業だ。
変化は、本当に、静かに訪れた。
2年生のある日のこと。練習場で仲間とくだらない話をしながら、いつものようにスケール練習をしていた。その時、ふと我に返ったのだ。
意識が、まったく指先に向いていない。
仲間との会話に笑いながら、遠くで流れるテレビの音に耳を傾けながら、僕の指は、まるでそれ自体が意志を持っているかのように、滑らかにフレットの上を動いていた。あれほど意識を集中させなければ押さえられなかった弦を、ごく自然に、当たり前のように弾いている。
驚いて、改めて自分の指先を見つめた。 そこには、毎日毎日、弦を押し続けたことで硬くなった、不格好なタコがあった。僕が「不器用だ」と嘆き、諦めかけていた時間も、この指だけは、僕の意志に応えようと、必死に変わろうとしてくれていたのだ。
その瞬間、頭を殴られたような衝撃が走った。 僕がずっと言い訳にしてきた「不器用」の正体は、才能の有無なんかじゃない。ただ、この「無意識にできる」レベルに到達する前に、僕が自分で自分に見切りをつけていただけだったのだ。
僕が「不器用」を乗り越えられた本当の理由
その日を境に、僕のギターは劇的に変わった。 一度「自動化」された指の動きは、僕の思考を飛び越えて、より複雑なフレーズ、より難易度の高い曲へと挑戦する強固な土台となってくれたのだ。
これまで「意識」して、一つ一つの動作を確認しながら弾いていたのが、嘘のようだった。頭の中でメロディを鳴らせば、指が勝手にその音を探しに行く。
考えてみれば、当たり前のことなのかもしれない。 僕たちは、自転車に乗るときに「まず右足をペダルに乗せて、次に左足で地面を蹴って…」なんていちいち考えない。パソコンのキーボードを打つときに、キーの位置を毎回確認しない。
何度も何度も転んで、擦りむいて、数え切れないほどタイプミスをして、それでも繰り返すうちに、僕たちの体は、その動きを「当たり前のスキル」として脳に刻み込む。一度刻み込まれたスキルは、意識しなくても、ごく自然に引き出せるようになる。
ギターも、そしておそらく、あなたがこれから始めようとしている副業や新しい挑戦も、根本はすべて同じなのだ。
才能やセンスという言葉は、あまりにも便利で、そして残酷だ。それは、継続の苦しさから逃げるための、甘美な言い訳になる。でも、本当の問題はそこじゃない。体が、脳が、その新しい動作を「当たり前」だと認識するまで、僕たちは、ただ、やめずにいられるか。その一点に尽きる。
結局、僕は3年生になったとき、100人以上いるサークルのメンバーの中から、たった10人しか選ばれない選抜メンバーの一員として、演奏会で喝采を浴びることができた。 あの時、不器用だという言い訳に逃げ込み、ギターをやめてしまっていたら、決して見ることのできなかった景色だった。
もし、あなたが今、立ち止まっているのなら
この記事を読んでいるあなたは、きっと、何かを変えたいと強く願っているはずだ。 でも、自信がない。過去の失敗が、あなたの足を重くしているのかもしれない。
でも、思い出してほしい。 自信がないのは、まだ、あなたの体がその新しい挑戦を「覚えて」いないだけだ。 「自分には向いていない」「才能がない」と結論を出すのは、あなたの指が、あなたの体が、それを無意識にこなせるようになるまで続けてからでも、決して遅くはない。
毎日、たった20分でもいい。 あなたが「こうなりたい」と願う未来につながる、小さな一歩を踏み出してみてほしい。
その一歩は、あまりにも小さく、誰にも気づかれないかもしれない。けれど、その退屈に見える一歩の繰り返しだけが、僕たちが「どうせ自分なんて」という心の呪いから抜け出す、唯一の方法なのだから。
僕自身、今でも新しい挑戦を前にすると、足がすくむことがある。 「本当にできるだろうか」と、不安で眠れない夜もある。
でも、そんな時はいつも、不器用だった僕の指が教えてくれた真実を思い出すのだ。 「やめなければ、体は必ず応えてくれる」と。
この話は、決して僕だけの特別な物語ではない。 もしあなたが、過去の僕のように、自分の可能性を信じきれずにいるのなら。 僕がこれまで、どんな壁にぶつかり、それをどうやって乗り越えてきたのか。その具体的な思考や行動のすべてを、僕の言葉で直接お届けする場所がある。
そこでは、もっと深く、もっと正直に、僕の経験のすべてを分かち合いたいと思っている。 次は、あなたの番だ。