「どうして、自分はこんなに人より劣っているんだろう」
かつての僕は、毎日そんな悔しさを抱えていました。周りが当たり前にできることが、自分にはできない。努力しても、気合を入れても、なぜか空回りしてしまう。
「サボっているわけじゃない。むしろ、誰より必死なのに」
そう思えば思うほど、周りの世界から自分だけが切り離されていくような、深い孤独を感じていました。
もし今、あなたが同じように「なぜかうまくいかない」という漠然とした息苦しさや、「自分はダメな人間だ」という自己否定の沼にはまっているのなら。
それは、あなたの努力が足りないからでも、あなたが劣っているからでもありません。
僕自身、30代で発達障害の診断を受けました。その時、長年の疑問が解けた気がしました。「僕が人より劣っていたわけじゃない。サボっていたわけでもない。ただ、特性があったんだ」と。
しかし、本当の困難は、そこからでした。
病名が分かっても、具体的な「生きやすさ」には直結しなかったのです。なぜなら、大人の発達障害が抱える最大の問題は、「自分が抱えている問題を、自分自身で正確に把握することが極めて困難である」という点にあるからです。
「自分は、何に、どの程度困っているのか?」
この輪郭がぼやけたままでは、どんな対策も空振りしてしまいます。すべてが噛み合わない感覚だけが残り、結局「やっぱり自分はダメだ」という自己嫌悪に戻ってきてしまうのです。
この「把握することの困難さ」が最もはっきりと形になったのが、障害者雇用での就職を控えていた時のことでした。この記事は、そんな暗闇の中にいた僕が、どうやって「自分でも気づいていなかった本当の問題」の正体を突き止め、人生の歯車を回し始めたのか、その軌跡の物語です。
「できません」で埋め尽くされた、僕の取り扱い説明書
転機が訪れたのは、障害者雇用での就職を控えていた時のことです。
支援機関の専門家から、「自分の特性を職場に正しく理解してもらうために、『自分の取り扱い説明書』を作ってみましょう」と提案されました。
合理的だと思いました。自分の特性を客観的に示し、配慮してほしい点をあらかじめ伝える。これこそが、僕の核となる思考原則である「意志」ではなく「設計」で乗り越えるための第一歩のはずでした。
僕は必死に、自分のことを書き出しました。 「電話応対はできません」 「マルチタスクは無理です」 「急な指示はパニックになります」 「スケジュール管理が苦手です」
書き上がった「トリセツ」を、僕は「これぞ客観的な自分だ」と信じて疑いませんでした。しかし、それを見せた専門家は、困ったような顔でこう言いました。
「ゴリアスさん。これは、あなたの自己評価が低すぎます。 『できません』『ダメです』『難しいです』という、否定の言葉ばかりですね」
頭を殴られたような衝撃でした。 僕は、客観的な事実を書いたつもりでした。しかし、専門家から見れば、それは「客観的な分析」ではなく、「自己否定的な決めつけ」の羅列に過ぎなかったのです。
「もう一度、フラットな目線で書き直してみませんか?」
この一言が、僕にとって本当の意味での「自分との対話」の始まりでした。
決めつけを「対話」で掘り下げる
僕たちは、自分の弱さや苦手なことを自覚するとき、無意識に「全部ダメだ」と決めつけがちです。
僕にとって、それは「電話応対」でした。
「電話が苦手だから、電話応対はできません」
これは、僕が固く信じていた「事実」でした。しかし、専門家からの指摘を受け、僕は初めてこの「事実」に、自分自身で「なぜ?」と問いかけることにしたのです。
「なぜ、電話がそんなに苦手なんだろう?」
対話のポイントは、答えが出たら、さらに「なぜ?」を繰り返すことでした。
僕: なぜ電話が苦手? 僕(答): だって、パニックになるから。
僕: なぜパニックになる? 僕(答): 仕事の手が止まって、さっきまで何をしていたか忘れてしまうから。
僕: それだけ? 僕(答): 違う。相手が何を言っているか、必死にメモを取ろうとしても、頭に入ってこない。聞き逃したらどうしよう、と焦る。
僕: 一番怖いのは何? 僕(答): 伝えられたことを覚えられないこと。電話の取り次ぎで、名前や用件を忘れてしまったら、とんでもないことになる。それが不安でたまらない。
「電話が苦手」の正体
対話を繰り返した結果、驚くべきことが分かりました。
僕が本当に困難を感じていたのは、「電話」という行為そのものではありませんでした。
「電話で伝えられたことを、覚えていられない」
これこそが問題の核心だったのです。
さらに言えば、これは「ワーキングメモリ(作業記憶)が極端に少ない」という、僕の特性に起因するものでした。
この根本原因がわかった瞬間、別の問題も一気に立ち上がってきました。
「待てよ。覚えられないのは、電話だけじゃない。 口頭での指示も、会議での決定事項も、全部同じじゃないか?」
そうです。僕が「電話が苦手」と決めつけていた問題の正体は、「ワーキングメモリの弱さ」だったのです。
この「本当の問題」を把握できたことで、僕が取るべき対策は劇的に変わりました。
以前の対策(決めつけ): 「電話が苦手なので、配慮してください」(これでは「わがまま」だと思われる)
本当の対策(設計): 「聴覚からの情報を記憶するのが苦手です。そのため、電話応対や口頭での指示は、聞き漏らしや記憶違いが起きる可能性があります。 対策として、ご指示や伝達事項は、できるだけチャットやメールなど、文字でいただけますでしょうか? 電話応対についても、用件を文字で記録するフローを徹底させてください」
「できません」という拒絶ではなく、「こういう特性があるので、こうさせてほしい」という具体的な「設計」の提案です。
「ワーキングメモリの弱さ」という一つの軸が見つかっただけで、電話応対、指示の受け方、会議での立ち回り方など、気をつけるべきポイントがすべて明確になったのです。
あなたが「劣っている」と感じる、その正体
発達障害を持つ僕たちが、なぜ自分の問題を正確に把握するのが難しいのか。
それは、あまりにも多くの困難が複雑に絡み合い、何が原因で、何が結果なのか、自分でも分からなくなっているからです。
「電話が苦手」 「スケジュール管理ができない」 「片付けができない」 「人付き合いがうまくいかない」
これらはすべて、表面的な「結果」に過ぎません。その奥に、僕で言えば「ワーキングメモリの弱さ」のような、根本的な「原因」が隠れています。
その原因が「衝動性の高さ」なのか、「過集中のコントロールが利かない」ことなのか、あるいは「感覚過敏」なのか。それは、人によって全く違います。
この「本当の問題」が分からないまま、「気合」や「意志」の力で表面的な問題を解決しようとしても、すべてが空回りします。
だからこそ、「対話」が必要なのです。
あなたが「自分は劣っている」「これはできない」と決めつけていることを、一つ取り出してみてください。 そして、かつての僕がそうしたように、「なぜ?」と、あなた自身に問いかけてみてください。
なぜ、その作業が苦手なのか? なぜ、あの場所に行くと疲れるのか? なぜ、あの人の言葉が頭から離れないのか?
自分一人での対話が難しければ、信頼できる人や専門家と対話するのも、非常に有効な手段です。僕も、専門家の一言がなければ、自分の「決めつけ」にさえ気づけませんでした。
意志ではなく、「設計」で人生は変わる
僕の核となる考え方は、「継続は『意志』ではなく『設計』である」です。
発達障害を抱える僕たちにとって、「頑張る」という精神論は、最も相性が悪い解決策です。僕たちは、自分の特性に合った「設計」を見つける必要があります。
そして、その「設計」の第一歩は、自分自身を正確に知ること。つまり、「対話」によって「本当の問題」を把握することに他なりません。
あなたが「劣っている」と感じていたその苦しみは、決して無駄ではありません。 僕の核となる思考原則の一つに、「経験はすべて『資産』になる」という言葉があります。
僕が「電話が苦手」というコンプレックスを掘り下げたことで、「ワーキングメモリ」という自分だけの「トリセツ」の核を手に入れたように。
あなたのその「うまくいかない」というネガティブな経験こそが、あなただけの「設計図」を描くための、最も価値のある「資産」になるのです。
もしあなたが、意志や根性に頼るのではなく、「設計」の力で自分らしい生き方を見つけたい。 そう感じてくれたなら、僕のメルマガを覗いてみてください。
僕が「普通」のレールから外れた場所で見つけてきた、「普通」に働けなくても自分らしく生きるための具体的な「設計図」や、あなたの「経験」を「資産」に変えるための思考法を、僕自身の言葉でお届けしています。
まずは、あなた自身の「決めつけ」に、小さな「なぜ?」をぶつけてみることから始めてみませんか。 その小さな対話が、あなたの世界を大きく変える第一歩になるはずです。